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【電影】蔡明亮『黒い眼のオペラ』~I don't want to sleep alone~

台湾の映画監督ツァイミンリャン(蔡明亮)の2006年の傑作『黒い眼のオペラ』

原題は『黒眼圏~I don't want to sleep alone~』

「西瓜」などビジュアルイメージの強い監督だったが、
マレーシアを舞台に繊細なストーリーを織り上げていく。

この映画には二人の傷ついた男がでてくる。
ひとりは賭けに負けてボコボコにされ街をさまよう男。
もうひとりは昏睡状態で母親に看病される男。
この二人の主人公をリー・カンションが一人二役で演じている。

ラジオからオペラが流れてくるなか眠り続ける男。
カーテン越しに差し込む光はこの作品をつらぬく
「救い」のテーマとして何度も作品のなかに表れる。

一文なしのホームレスとなった主人公シャオカンを介抱するのは、
黒い肌をしたアラブ系のラワンという男だ。
ぼろぼろになったシャオカンを、ラワンは恋人のように介抱する。
服を脱がせ、それを洗濯し、布団のシーツをかえ、シャオカンとおなじベッドで眠る。
ラワンは仕事のあいだもずっとシャオカンのことを考えている。
ラワンの献身によってシャオカンが癒されていく一方で、
シャオカンを看護することで徐々に心が満たされていくラワンの姿がある。

そしてもう一つの「救い」の物語はより悲劇的である。
昏睡状態となった息子を看護する母親は、
まったく反応しない息子の歯をみがき、頭を洗う。
その機械的な「介護」の姿は、両者に決定的な救済をもたらすことはない。
どちらも救われることがない、という物語がもうひとつのテーマとなる。
真の救済を必要としているのは、実は母親のほうなのだ。
母親は自分の息子に良く似たシャオカンと出会い、肉体的な救い求めるが上手くいかない。

この母親の経営する食堂で働くシャンチーという若い女性がいる。
母親に強制され、寝たきりの息子に性的な奉仕をするよう求められる。
そしてある日シャオカンと出会い互いに求め合うが、
街に漂う深い霧のために咳き込んでしまってうまくできない。

この作品には華人であるシャオカンから見た、
ふたつの他者による救済の姿が現れているようにおもう。
アラブ人男性というサイードのオリエンタリズムを具現化したようなラワンによる救済。
そして母親、シャンチーという女性による救済。
面白いのは女性による救済はどちらもことごとく失敗しているということだ。
シャオカンを唯一救うことができたのは、
心から尽くしてくれたアラブ人の男だけだった。

「傷ついた男」を救済する女性、という構図は、
ヘミングウェイの『武器よさらば』など多くの物語で見られる。
戦場で傷ついた男を癒すのは看護婦だ。
戦争という「男と男の戦い」で傷ついた男性のもとに現れて、
心も体も癒してくれる天使のような女というのは、
男性が抱く理想的な女性像のひとつの類型ではないだろうか。
女性はときに「歌」によって男たちを救ってきた。

この作品ではラワンが傷ついたシャオカンに対して、
献身的な愛を注ぐシーンがなによりも美しい。
灼熱のマレーシアで自然に上半身をあらわにしても、
そこにホモエロティックな印象はない。
ラワンは慎重にそれを回避するし、シャオカンも無関心を装う。
そこにはただ純粋に、「傷ついた男」に対するラカンの献身が描かれているだけだ。
しかしシャオカンは怪我が治ったとたんに若いシャンチーのもとに転がり込む。
消えたシャオカンを追ってきたラワンは、シャオカンの喉元に鋭利な刃をつきつける。
そして安堵したように涙を流し、三人ならんで眠るシーンで物語は終わる。


物語の後半で、街はとつぜん深い霧につつまれる。(ほんとうは山火事の煙だ)
その煙を吸い込まないように、みな布を巻いたり、ビニール袋を両耳にかける。
日本だったらすぐにコンビ二でマスクを買ってしまうが、
こうした身近にあるもので代用するという普遍的な知のあり方を、
レヴィストロースは「ブリコラージュ」と呼んだ。

ラワンが熱さましのためにシャオカンの額に乗せるのは氷袋ではなく、
緑色のジュースの入ったビニール袋だった。
怒り狂ってシャオカンの喉もとに突き立てられた刃は、
ナイフではなく空き缶の鋭利なふたである。

そして救いを求めながらも決定的な解決策にいたることなく、
身近にいる人物をつかのまの癒しをもたらしてくれるものとして代用していく姿もたまた、
「救済」をめぐる普遍的な知のあり方なのかもしれない。
~I don't want to sleep alone~という副題にあるように、
シャンチーが眠る前に枕元で照らす安物のクラゲのようなおもちゃもまた、
寂しさを紛らわすための束の間の代用品にすぎない。

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