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AKB48とオープンソース

「AKB48はオープンソースである」という仮説について書きたい。そもそもオープンソースとは何か。

エリック・レイモンドの刺激的な論文「伽藍とバザール」を、バロウズの翻訳者としても知られる山形浩生の訳でわれわれはウェブ上で見ることができる。

これまでのソフトウェアは、たとえるなら静かで荘厳な「伽藍」だ。マイクロソフトのような巨大企業が優秀なスタッフを雇い独自に開発したソフトを顧客に売る。「作り手」と「買い手」は厳密に別れており、参加者は限られている。

対してオープンソースは騒がしく人の行き交う「バザール」のイメージだ。初期段階からソフトウェアを無償で公開し、参加者を限定せず、次々に改良を加えていくことでソフトの性能が飛躍的に向上していく。

梅田望夫は「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)」でオープンソースの本質を「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開さると、世界中の知的リソースがその種の周囲に結びつく」ことがあり、「優秀な才能が結びついた状態では、解決すべき課題にかんする情報が共有されるだけで、その課題がつぎつぎに解決されていくことがある」と定義している。

この比喩を用いれば、新聞、テレビといったメディアは「伽藍」的メディアだ。作成したコンテンツを、「一方向」に「一斉に」とどける。2009年10月に開催されたBPO青少年委員会「公開シンポジウム」のパネルディスカッションで、放送作家のたむらようこは、テレビ制作の現場が、ネット上で交わされる番組評価に強い衝撃を受け、作り手からは想像もできない「誤読」にとまどったことを告白している。逆にいえば、これまでテレビ番組の作り手が、どれだけ視聴者の多元的な受けとり方に無関心だったかを示している。「表現者」は常にヒエラルキーの上にいて、コンテンツを「一方通行」に「一斉配信」していた。

多くのアイドル、アーティストはこうした「伽藍」方式のなかで生み出されてきた。ジャーナリスト鳥賀陽弘道が「Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 (岩波新書)」が分析するように、とりわけ90年代以降、日本では「テレビ」「広告代理店(企業)」「音楽会社(音楽プロダクション)」の3者が強く結びつくことで「JPOP産業複合体」という特殊なネットワークを形勢してきた。アーティストの音楽は、CMタイアップ、ドラマタイアップによるテレビでの宣伝が主流となり、Jポップは3者間の「合議」のもとに作られることが常態化している。商業主義音楽にたいして憎悪を抱く人の多くは、こうした音楽の商業化だろう。
(これは非常に興味深い話題なので、そのうち別テーマとして書きます)

さて、これに対して、AKB48はきわめて「バザール」に近い形態から始まった。2005年にスタートしたAKB劇場には、旧来のアイドルファンたちがまっさきに反応した。おそらく「作り手」よりもはるかにアイドル知識に長けたファンが、AKBの「アルファ版」をまっ先に体験したといえる。「アルファ版」とは、製品開発の最初期段階にあるハードウェアやソフトウェアのことで、このアルファ版を配布し、基本的な動作環境や性能を評価してもらうことを「アルファテスト」という。この期間にあらゆる試行錯誤が、作り手とファン双方からなされたことが、以後のAKBの活動を決定づけた。プロジェクトの「バグ」は目利きのファンによって指摘されることで改良される。それは作り手にとっても、受け手にとっても望ましいことなのだ。劇場支配人の戸賀崎氏みずからが、積極的にファンに意見を求めていったことは画期的なことだった。「早めのリリース、しょっちゅうリリース、そして顧客の話をきくこと」はバザール式の前提条件だから。

しかし、プロジェクトを始めから「バザール式」で始めることの難しさを、レイモンドは説いている。プロジェクト自身に魅力があり、最後まで面倒を見られるほどの可能性がなければ、ファンはすぐにそのオープンソースを手放してしまうだろう。「お客様は神様です」などといった浮ついた科白のかわりに、参加者の意見をとりいれ、ときに「ごほうび」をあたえつつ、一緒に育てていくこと。AKB48は、最後まで追いかけるに値する(と思わせるだけの)魅力をもったプロジェクトだと示すこと。その初期段階で、アイドルが専用劇場を持つという目新しさ、48人という大所帯、劇場で情勢されていくファンカルチャー。それらが「目利き」の古参ファンを惹き付け、積極的な参加を促したのだ。

梅田望夫は「オープンソース現象」の例として、発展途上国でのコレラ問題を上げる。従来の組織的な手法では解決できなかったコレラの深刻な問題が、あるときウェブ上で提示された途端に、世界中のプロフェッショナルたちがネットで協力しあい、わずか数カ月のあいだに低コストで訓練なしに使える新システムが開発され、その課題は解決されてしまったという。

米ワイヤードに紹介されたこの記事を見た村山尚武氏のブログにはこうある。


創造の結果だけでなく過程を共有することによって参加者が互いに触発し合い、これまでに無かったもの、素晴らしいものを作ることができるのだ。それはまた、無数の凡人が互いに思考を共有し、足りない部分を補い、アイディアの連鎖反応を起こすことにより、より大きなインパクトを(大げさに言えば)文明に与えることを可能にするのである。これまた大げさな言い方をすれば、より多くの人に、「自分の生きた証」「自分のいなくなった後に残るモノ」を残す道を開いた、と言っても良いかもしれない。



もちろんAKBは完全なオープンソースではない。あくまでもひとつの比喩にすぎない。しかし「伽藍」式であったこれまでの音楽業界に突如あらわれた特異な「バザール」であることは疑いようがない。そこには「創造の結果」ではなく「参加する喜び」がある。この「過程を共有する」喜びがあるかぎり、それは「バザール」であり「オープンソース」として充分に魅力的なものだ。

人気がでれば「Jポップ産業複合体」という「伽藍」に取り込まれてしまうことは、避けられないことなのかもしれない。ある程度の知名度ができてからファンになった圧倒的多数のAKBファンは、かつてのアイドル文脈のなかでAKBをとらえることだろう。

コラムニストの泉麻人は「人々はスペースインベーダーに飽きるように」ピンクレディーというゲームソフトを手放した」と書いた。

オープンソースは、もはや改良の余地が無くなったときに「完成」する。それはひとつの「商品」となるということだ。われわれは商品には飽きても、たとえば「学校」に飽きることはない。学校がどうして飽きられないのか。それは常に人が入れ替わるからだ。

AKB48が「魅力的なソース」として存在し続けていってほしい。
だからこそ、このタイミングでAKB48が「原点回帰」を掲げるのは、正しい判断だと思うのだ。






参考文献


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
梅田 望夫
筑摩書房
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伽藍とバザール―オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト
エリック・スティーブン レイモンド
光芒社
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Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 (岩波新書)
烏賀陽 弘道
岩波書店
売り上げランキング: 63973


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